Amazon Alexaスキル開発・VUIデザインのお話 “VEGERY” 編
こんにちは、中嶋あいみです。
ISAOがデザイン・開発協力をしたAlexaスキルがリリースされました!
『アレクサで野菜が買える』日本初のスキル
VEGERY(ベジリー)は宮崎県産のオーガニック野菜がお取り寄せできるスキル。株式会社ベジリーファームさんと共同でISAOが企画・開発しました。
キッチンにAmazon Echo、特にEcho ShowやEcho Spotの画面付きデバイスを置いている家庭での利用シーンを中心に、新しいUXを提案しようと企画が始まりました。
Alexaスキルでの収益化
現状Alexaスキルでマネタイズするには二通りの方法があります。
- デジタルコンテンツが販売できるスキル内課金
- 物理的な商品やチケットが販売できるAmazon Pay
今回は後者のAmazon Pay対応スキルです。つまりAlexaにECサイト機能を組み込むことができるというわけです。
VEGERYとは
ベジリーファームは、宮崎県綾町に本社があり、農産物の生産・流通を行っています。親会社である株式会社ベジオベジコが運営する「VEGERY」は九州産のオーガニック野菜・果物を中心とした生鮮食品のデリバリーサービスアプリを運営しています。 ベジリーファームでは主に、その「VEGERY」用の野菜の生産・流通を行っています。ベジオベジコは 東京の根津、渋谷に実店舗もあります。
私自身、VEGERYの野菜ファンで、宮崎県の農家さんが手がけた驚くほど糖度の高いトマトやみずみずしいナスなどを、VEGERYを経由し購入することができます。
VEGERY Alexaスキルはどのように生まれたか
さて、ここからはどのようにスキルを作って公開まで至ったかをお話したいと思います。
ターゲットはVoiceUI Show。とにかく短期間!
5月31日(金)のVoiceUI Show ~2019 Spring~に合わせて公開したかったのですが、諸事情により着手を始めたのがGW明け。 VUIデザインも開発も申請も・・とにかく時間がありません。
通常Amazonへの申請⇒認定フィードバック受領⇒スキル修正⇒再申請 には日数を要するので、VUIデザイン、マルチモーダル用のUI制作、実開発にかけられる日数は、逆算すると全体で10営業日くらい。
ちなみに弊社の体制は、VUIデザイナー:中嶋、エンジニア:鳥居のコンパクトな2名体制です。
2人とも他プロジェクトも兼任のため、ウォーターフォール型では間に合う目処がつかず、色々と平行してスタートしました。
VUI (Voice User Interface)を考える
Amazon Pay対応スキルで必要なこと
今回のスキルのコア機能は、「商品を購入する」こと。
VUIのハッピーパス(最もスムーズな成功例)は難しくないのですが、考慮しなければならないあらゆるパターンがあるのです。
ちなみにハッピーパスは、初回ユーザーとリピーターで異なる想定をしています。 商品名を詳しく知りたい人には、「詳しく教えて」で商品説明を聞いてもらい、リピーターはダイレクトに商品詳細に行けるようなVUIが良いと考えました。
ざっくり書くとこんな感じです。ピンクがユーザー、ブルーがAlexa。赤線がリピーターのハッピーパス、青線が初回のハッピーパス分岐です。
通常の購入フロー以外にも、Amazon Pay対応スキルならではの発話やエラー対応が多く、すでにリリースされている他スキルを色々研究し、参考にさせていただきました。
これらに対応したフローや対話も用意が必要です。
- カートに商品が残っている状態でスキルを再起動したら購入に進むか確認する
- ユーザーのAlexa設定で音声ショッピングが無効の場合
- ユーザーのAlexa設定で4桁の確認コードがON、かつ間違ったコードを発した場合
- スキルストアでAmazon Payのアクセス許可がOFFの場合
- ユーザーが配送先住所を変更したいと言う場合
- ユーザーがキャンセル・返金したいと言う場合
重要な決定を促すときの、理想のVUIとは
基本的にVUIデザインでは、なるべくAlexaと人間らしい対話をしてユーザーに機能を提供することを心がけています。 VUIデザイナーの仕事は、Alexaを機械ではなく人間だと錯覚するくらいの自然な音声アシスタントにすることでもあります。 同時に、ユーザーが発する言葉も、あらゆるバリエーションに対応することも必要です。
例えば
次に進む場合は「はい」、やり直す場合は「いいえ」と言ってください。
のようなものは、VUIではなくIVR(自動応答システム)のように感じてしまうので、人間らしい対話とは言えません。
しかし、EC機能を実装するということは、万が一でも『誤検知して意図しない商品を購入させてしまう』等が発生してはいけません。
クリティカルな分岐には、受け付けるIntent(意図)はあえて絞って、間違えが起こらないようにする必要があると考えています。
よって、最終的な購入確認は以下のようにしました。本当に買っていいよね?という確認です。
ご注文の確認です。スムージーセットが1点、税込3,780円をベジリーファームに支払います。 配送先は◯◯でよろしいですか?「はい」か「いいえ」でお答えください。 はいと言うと、決済が完了します。
固有名詞を呼び出し名に使うときの工夫
Alexaは固有名詞を思った通りのイントネーションでは言ってくれないことがよくあります。案の定VEGERYも正しいイントネーションで『ベジリー』と言わせるためには、一工夫必要でした。
修正前
[audio mp3="/uploads/Vegery-Before.mp3"][/audio]
修正後
[audio mp3="/uploads/Vegery-After.mp3"][/audio]
微妙に異なるのが、わかりますか?
あらゆる文字列で試行錯誤した結果、ベストだったのが『ベジ』を平仮名、『リー』を『LY』にすること! テキストにするとわけがわからないですが、以下のように書いています。
宮崎野菜の、べじLYです。
Alexa側、VUI以外に必要なこと
スキルで商品を購入させるだけでなく、販売側がどうやって売上を把握するかというのが気になるところだと思います。
Amazonセラーセントラルという、Amazonで出品するための企業登録や管理画面があり、Alexaで商品を販売する場合も必要です。
こちらにも審査期間があるので、あらかじめ販売事業者の登録・承認を済ませておけると安心です。 その後にAlexaのスキルIDを連携させることにより、いよいよAmazon Payのインテグレーションが利用できます。
バックエンドの開発をおこなうことで、商品が売れたらメールが届くとか、販売状況を可視化するダッシュボードなどの拡張も可能です。
申請・公開までのリードタイム
5月31日のイベント出展から逆算し、2〜3回の申請・修正対応があると想定。 過去の経験からも、翌営業日には認定フィードバックがもらえるので間に合うと思っていましたが、甘かった! Pay対応なので通常よりも確認フローは多くなるようです。
最終的には、3回目の申請ボタン押下後に公開連絡をいただくまで7営業日かかりました。
VoiceUI Showでは結果的に先行お披露目という形になりましたが、6月12日からのAWS Summit Tokyoでは無事『昨日リリースされたスキルです!』と堂々とお見せすることができてホッとしました。
まとめ
- お金が絡むなど、クリティカルな発話はあえて柔軟性のないVUIを!
- Amazon Pay対応スキルは、プロセスが長いので余裕を持って開発・申請しよう!
- Alexa側以外にも販売事業者登録が必要なことをお忘れなく!
今後について
VEGERYスキルは実現したいことは初めから明確だったので、ISAOのVUI企画プロセスで提唱しているデザイン・スプリントは取り入れず、いきなりVUIデザインを始めました。
リリースまではかなり短くできましたが、スケジュールや工数の都合により諦めた機能や、修正したいフローも実はあります。 早速いまも次のアップデートに向けて手を動かしているところです。
スキルの公開は、あくまでスタートライン。 継続して使い続けたくなるスキルを目指しPDCAを回すことで、Alexaスキル全体の質向上にも貢献できればいいなと思っています。
ぜひ使っていただいて、リクエストや感想を教えていただけると嬉しいです。
Alexaスキル開発にご興味のある方・企業様はいつでもお問い合わせください。 ISAOは「Amazon Alexaスキル開発エージェンシープログラム」 に認定されました!
最後まで読んでいただいてありがとうございました!