僕は、経営者という立場で15年間働いています。
初めての経験は、2006年にドイツで駐在していたときでした。 部門の別会社化により、20人くらいの会社の代表になりました。
その後、2010年に日本に帰国してすぐに、元の会社からColorkrew(以下、カラクル)に出向し、代表をすることになりました。 昨年には、親会社からカラクルそのものが独立して、僕自身は初めて会社員ではない立場として代表になりました。
サラリーマンではない経営者になったことから「ものすごく心境が変わったでしょう?」と何人かの人に聞かれたのですが、不思議なことにほとんど心境の変化はありませんでした。
その理由は、経営者として一番大事なことを理解し、行動し始めたのがもう随分と前だからかもしれません。
経営に必要なスキルとは
経営は、バランスです。 いま事業がうまくいっていても、そこにいるチームがやる気をなくしてしまえば、将来は危うい。
逆に、チームはやる気満々だけれども、事業ポートフォーリオがダメで、足元の業績がずっと悪ければ会社は潰れてしまうかもしれません。
業績を伸ばしつつ、チームのやる気を引き出すというバランスをいかに取っていくかは、まさに”言うは易く行うは難し”です。
経営は日々判断の連続です。 成長していくためには、無難な判断だけでなく、ときにはリスクを取らなければならないことも出てきます。
どんな選択肢も難しそうに見えるけれど、何もやらない訳にはいかない時などは、本当に苦しい決断になります。
苦しい決断の連続に関して、非常にうまく説明していて共感した本がありますので、以下お勧めしておこうと思います。
ベン・ホロウィッツの「Hard Things 〜答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか」
いま経営をしている人や、将来経営者になりたいと思っている人はぜひ読んでみてください。
話をもとに戻します。 現状維持を否定し、常にベターを求めて判断を量産するスキルが経営者には必要なのです。
しかし、経営者になるためにはそれよりももっと大切なコトがあると僕は考えます。
それは経営者としての「覚悟」です。
最も大切なコトを学んだ2006年の話
僕がそれを学んだのは2006年にドイツで初めて会社を作る直前の経験でした。
作る予定の新会社は、部門を切り離した子会社です。 銀行に直接借入もせず、親会社が必要な金額を貸し出してくれるという体裁でした。
はっきり言って僕は、それまでの中間管理職的な役割の延長線上で考えていました。
別会社化することで、最適なオペレーションにできることのメリットは享受し、リスクは何もないものだと思っていたのです。
事件は設立の直前に起こりました。
新会社設立前、その部門を通年で赤字にしてしまったのです。 それまで新会社設立に関して、全面的にバックアップしてくれたビックボスが日本にいたのですが、その人の逆鱗に触れました。
怒られることがわかってたので、報告も少し遅れました。 というより、僕自身が直接説明する前に、知られてしまったのです。これが怒りに輪をかけました。
突然夜中に電話がかかってきて「明日日本に来い!」と怒鳴られ、呼び出されました。
そして、2ヶ月でドイツから日本に4回行くことになりました。
「オマエはわかってない!」
赤字になってしまった理由について少し説明します。
実は新会社設立前、僕は部門長ではなく、ラインに乗っていない「コーディネーター」なる、よくわからない立場でした。
ただ、日本の本社から派遣された駐在員ですので、日本に対しては説明責任がありますし、事業がうまくいかなければ、追求を受けるのも僕でした。 一方で、部門の中での権限はほぼ皆無。
正直言って「こんなに権限ないのに、なんで責任ばっかり負わされるんだ」と不満でした。笑
当時の僕の立場からは「部門長がしっかりコストや、フォーキャストなどをコントロールしてなかった」という感覚で、突然僕の知らないところからマイナス要素が出てきて、あっという間に赤字になってしまったため、僕は何も悪くない!と思っていました。
いまから振り返れば、この赤字に関して責任は感じていなかったのでしょう。
ですから「なんで赤字になった」「今後二度と同様の失敗しないためにはどうする」と聞かれたら、一応振り返りながら「こうこうします」と回答しました。
そして、「自分がやれば今の部門長みたいに穴だらけのマネジメントはしないから大丈夫です」というのが僕の主張でした。
自分としては、その部門長よりうまくシゴトをする自信もありましたし、必死でやる気持ちもありました。 最悪な場合、もしうまくいかなければ会社をクビにでもなんでもしてくれていいという覚悟もありました。
ところがビックボスは、僕がどんな説明をしても納得してくれませんでした。 (だから4回も呼ばれたのですが…)
「オマエは覚悟が足りない」
彼が僕に伝えようとしたことは「覚悟が足りない」でした。 これが当時の僕にはわからない。
必死でやる気もあるし、うまくいかなければクビにされても構わない。 そこまでの覚悟を持ってやろうとしているのに、覚悟が足りないと言われる。
「じゃあどうしたらいいんだよ!!」という気持ちでした。
トコトン話しても、全然腑に落ちなかった僕に彼は言いました。
「”ベストを尽くす。ダメならどんな処分も受け入れる”ではダメだ。」と。
自分のことしか考えていない、だからそれは経営者としての覚悟ではない、と彼は僕に言いました。 完全に迷子になっている僕に、さらに彼は言いました。
「別会社にするということは、もし会社がうまくいかなかったら、そこにいる20人の雇用はもはや守られない可能性があるのはわかってるか?」
はい。わかってます。 だから必死でやります。彼らのためにも。
さらに彼は聞きました。 「オマエが背負っているのは彼らだけか?」
「???」
従業員20人の先には家族がいる。 彼は、経営をするということは、その人たちも背負うということであるということを理解させたかったのでした。
手に入れた覚悟
僕の中で理解しなければならないことが、ストンと腑に落ちた瞬間でした。
はっきり言って、その覚悟があるからといってやるべきことが大きく変わることはありません。
しかし、「どんな状況でも諦めないで、やり切る。ダメなら…という思考は持たない。」という腹の一番奥底にカチッとした土台ができたのです。
このマインドセットを持てるようになったことで、以前より粘れるようになりましたし、いい意味で諦めの悪いオトコになることができたのです。
いかがでしょうか。 経営をするために最も重要なことは、経験でもスキルでもなく覚悟だという話でした。