前回の記事ではバリフラット組織には、オープンにすることが重要であったことお伝えしました。
今回はその「オープン化」の前にしなければならないこと、また実際にISAOで何に取り組んだのかを書きたいと思います。
2010年、新生ISAOに着任
2010年4月1日にISAOは元の親会社のCSKから、豊田通商に売却され、僕は豊田通商の社員として出向でISAOに送り込まれた落下傘経営者として、ISAOにやってきました。
しかし、僕が実際にISAOに着任したのは2010年6月21日でした。
新しいISAOのスタートに間に合わなかったのは、その前の仕事(ドイツ)での引き継ぎに少し時間がかかったことが原因です。
ですから4月からの新ISAOの代表には、豊田通商の先輩がまずなり、その後10月で代表を引き継ぐことになりました。
だれも僕を知らないというスタート
僕は小学校の時に、2回転校した経験があります。
1度目の転校では、その地方の言葉がなかなか話せないという問題もあり、かなり苦労した記憶があります。
イジメみたいなものも経験しました。
ISAOに来た時も、ある意味転校生のようなものですから、どんな展開になるのかドキドキしました。
上述したように、10月まではタイトルもなく、中途半端なポジションでしたので、幹部の人たちを除き、160人くらいいたほとんどの人たちは僕のことを全く知らない状態でした。
当時よく喫煙室で仲良く話をしていた女性社員は10月になるまでの3ヶ月ほど、僕が新しくきた営業の人だと思っていたみたいです。笑
ともあれ、誰も僕のことを紹介してくれませんし、ITサービスは全くの素人だったこともあり、ほぼ透明人間のように過ごしていました。当時の役職者の人たちからも**「中村さんはあんまりわかってないでしょうから、事業に関わらなくて大丈夫です」**と言われ、仕事もほとんどなく、完全におミソ状態でした。
ただ、おかげでいろいろな人と、変な遠慮なく話ができましたし、親切な同僚がわからないことなどを教えてくれたおかげで、この期間は僕にとっては非常に重要な時間となりました。
あと、席の近かった2人がかなり構ってくれて救われたことを付け加えておきます。
リョウさん、ヒデさん、ありがとう。いまでも感謝してます!
情報クローズの闇
しばらくすると、いくら情報が閉ざされているとはいえ、徐々に僕が10月に代表になることを知って話かけてくる人が出てきました。
その中で、営業マンがいたのですが、その人は**「この会社の給料は不公平すぎる」**と僕にクレーム(?)を言ってきたのです。
今のISAOは給料が完全公開されているので、調べるのは簡単ですが、当時はそういうものはありませんので、無理やり人事の人に一覧表を作ってもらいました。
(かなり怪訝な顔をされた気がします)
するとびっくりするような現実が浮かび上がってきました。
「給料」がめちゃくちゃなのです。
多くの人が、仕事のレベルと給料のレベルが合っていない。
トップ営業マンの給料が、コーポレートのアシスタントの人よりもずっと低かったり、若手で活躍している人が不当に低くて、年齢が高い人が相対的に高い給料になっていたり。
前職の条件をただ引きずってしまっていたり、局所的には好き嫌いが人事にでていたのかも知れません。
しかも、細切れの情報や、噂が飛び交い、みんなが疑心暗鬼になっている。
これはヤバいと思いました。
給料をゼロベースで見直す
先のブログで「オープン化が重要」と書きましたが、実はオープンにするためには、まず**「説明できる状態」**にする必要があります。
給与体系の見直しと人事制度の刷新が急務と判断しました。
当時の幹部の人たちと相談し、12月頃から、役職者を集めて、一人一人の人材価値を、計3日かけて話し合いました。
意見の相違があれば、満場一致になるまで時間をかけてやりました。
これによって、縦横斜めの角度から全社員のバリューを判断し、新しく作った等級(11段階)に当てはめていく。
評価として、年収で200万円くらい上がる人がいる一方、100万円以上下がる人も結果として出ることとなりました。
あまり原資を考えずに、まずが絶対的に判断しようとみんなで決めてやったのですが、面白いことに結局給料の総額はほとんど同じになりました。
大荒れした人事評価の通達
2011年4月に新しい等級制度はスタートしましたが、通達はその2ヶ月くらい前から行いました。
給料が上がる人は全く問題ありませんが、評価がいままでの給料よりも下がる人に伝えることは辛い仕事でした。
突然**「あなたは、今の給料の価値はありませんので、給料が下がります」**と伝えられたら誰もいい気はしませんし、怒る人や、じゃあもういいやと辞めてしまう人も出てきます。
給料を上げるのは即時、下がる場合は調整給で2年かけて調整する制度を作って運用をしました。
人事評価は「神の領域」
人事評価に完全な正解はありません。
人のやることですから、エラーもあり得ます。
僕は、人事評価に関しては常に**「神の領域」のことを人間がやっているのだから、自分たちが常に間違っている可能性があることを意識**しながらやらなければならないと思っています。
また、人事評価は「その会社の」評価であって、「マーケットでの評価」とも完全に同じものではないことも理解しなければなりません。
役職者が「自分が絶対的に正しい」と思って人の評価をすることは、非常に危ないことなのです。
ですから権限があって、評価する人は常に謙虚でなければなりません。
「説明できるか」という自分たちへの問い
全てがパーフェクトな人事評価は難しい。そうだとしても、人事評価もやはりオープンに向かわなければならないと僕は思っています。
オープンには説明責任が伴います。
疑問に対して答えきる覚悟が要求されます。非難されることもあるかも知れません。
そういった覚悟を持って、判断することが、フェアに近づく大きな前進なのです。
それ以外の会社の運営も、常に「それをみんなに説明できるか」を意識してやっていくべきものです。
説明できないことは、何か後ろ暗かったり、ごまかしたりしている可能性が高いのです。
例えば、クローズだったらまかり通る「オレこいつのことかわいがっているから上げてやろう」という論理はオープンの世界では通じないのです。
説明できる状態になるまで粘り強く取り組む
人事評価だけでなく、会社の経営・運営は、説明できないものがあれば、必ず説明できる状態にしていかなくてはなりません。
そして、説明できるようになったら、どんどんオープンにしていく。
逆に説明できない状態でオープンにすると、疑問を受けた時に納得してもらうことは不可能です。
今回、ISAOの過去の実例の話をしましたが、「説明できない状態」はどの会社でも多かれ少なかれあることなのではないでしょうか。
まずは、自分が納得して説明できるようにする。
オープン化はそれからです。