ダイヤモンドメディア株式会社の代表取締役 武井浩三さんををお招きしての経営対談。
第一回「ホラクラシー経営とバリフラット経営」では、お互いの紹介に始まり、なぜそのような経営に行き着いたかという話などで盛り上がりました。 今回は、給与や評価といった生々しい話題に踏み込みます!
第二回「本音で話す給与と評価」
価値ある人をどのように評価するか
中村
ちょっと話題を変えまして・・・ 意味もないのに威張っているのはムカつく的な話が先程ありましたが、実力のある人はやはり自然発生的にリーダーっぽくなっていくんだと思うんです。 ヒエラルキーではないけれども、誰かが先を歩いてそれについていく人がいるみたいな。そういう、フラット経営の中に生まれるリーダー的存在はどう扱っているのか気になります。
武井
ダイヤモンドメディアの給料はベーシックインカムを厚めにしているのですが、「実力給」という給与制度があり、その部分が変動給となります。 それを半年に1回全社員で決めなおしています。
中村
上限値とかはあるんですか?
武井
いや、ありません。 給与には職務給と職能給という2つの考え方があるじゃないですか。 職務給は仕事自体の価値を評価、職能給はその人の知識や能力を評価だと思うのですが、それだけでは正しく評価できないと思っています。 例えば「ムードメーカー」だったり「なんか物事を上手く進められるキャラ」だったり。
中村
表現が難しいけどたしかに価値がある人っていますよね。
武井
はい、そういう力の定量評価って難しくて、評価制度にしきれないと思っています。
中村
神のみぞ知る感はありますよね。(笑)
武井
360度評価なんかもやってみたのですがしっくり来ず、「他人が他人を評価する」ということ自体をやめました。 ではどうやって決めているのかというと、株価のように市場の相場に照らし合わせる形で決めています。 給料をすべてオープンにし、市場価値や個人間の格差バランスをみて決めています。
給与もオープン!その名も「お金会議」
中村
給与幅はどのくらい生まれるものなんですか。 ISAOだと350万円から1,200万円くらいで、30代前半で活躍している人は900万円台くらいな感じです。
武井
うちもそんな感じですかね。 平均年齢が28、29歳くらいで、平均年収が今500万円くらいです。 専門性が高い仕事なので、安すぎると採用ができないという実情もあります。 新卒で350万くらいから、上は900万円くらいですかね。 ただ、業務委託で働いてもらっている人は1,000万超えている人もいますね。
中村
給与の決め方が非常に興味深いですね。 みんなで「この人は700万円くらいありそうだ!」とか言い合う感じですか?
武井
給与のことは会社全体のお金の使い方を決める「お金会議」で決めています。 9年間の試行錯誤で見えてきたガイドラインをベースに決めているのですが、まずは「マーケットバリューに合わせること」ですね。 例えば、その仕事を外注化したらいくらくらいなのかとか、その仕事をする人を新規に採用したらいくらなのかとか、そういうことです。 みんなで集まって、能力の高い人がリードしながら話し合う感じです。
中村
業務委託の人も入って皆で決める感じですか。
武井
そうですね。 業務委託の場合は給与を払う場合の30%から50%くらいは上乗せして払っています。
中村
というと、業務委託の方が社員になった場合には、支払額は下がるのですか。
武井
手取りは下がりますね。 ただ、住宅ローンの審査だとか、年金受給額だとか、色んな意味で社員であることのメリットはあると考えています。
評価から切り離すモノたち
中村
ISAOの給料の決め方ですが、ISAOには各個人の成長を見守るためのコーチング制度があります。 コーチには必ずしもシニアメンバーがなっているわけではなく、若いメンバーがシニアメンバーをコーチしていることもあります。 各個人の成長を最もサポートできる人が年齢関係なくコーチになっているという感じですね。 そのコーチや、プロジェクトで一緒に関わっているメンバーであれば、いつでもその人の昇給推薦をしていいことになっています。 その推薦を「人事委員会」という「ちょっと枯れた、脂ぎっていない人達(笑)」が承認する形で運営しています。 また、ISAOは等級ごとに給与が決まっているのですが、各等級の構成要素は専門的なスキルレベル、+αのビジネス貢献、基本動作、経営参画となっており、各項目をプラスマイナスして等級に落とし込んでいます。 ISAOはリアルタイムにいつでも昇給推薦、給与改定が行われるので、一応半期毎に評価もしているのですが、給与の確定というよりは「もう少しで等級があがりそうだよとか、もう少しで下がりそうだよ。」といった情報を伝える機会としています
武井
なるほど。
中村
この運用をオープンな組織で行っていると、まずおかしな評価にはならないと感じています。 オープンであるがゆえに誰でもGoalous(ISAOが自社開発している社内SNSサービス)上などで質問ができ、質問への回答も全社員が見るので、個人的な贔屓なんてもってのほかです。
武井
いいですね。 業種、業界による経営スタイルの違いはあっても、透明性の担保は必ず必要だと思います。 ダイヤモンドメディアでは、給与を議論する際は4つの点を「評価しない」ようにしています。
「自己評価」、「短期的な評価」、「その人への将来への期待値評価」、「業務内容の変化による評価」です。 自己評価は、客観性にかけるので評価の中に入れない。 短期的な評価は、その人の価値を見誤るのでしない。 その人への将来への期待値評価は、給与バブルを生むのでしない。 業務内容の変化による評価は、本質的なその人の価値が変わっているわけではないのでしない。 そう考えながら評価を整えていきます。 そうして整えた評価にまれに納得を得られないことがあり、その場合には役割の提案等もしますがそれでも合意できない場合には転職を勧めます。
中村
すごいISAOに似ていますね。 特に「短期的な評価」に関する部分が似ています。 僕たちはAWARDという成果報酬の仕組みで短期的な評価をしており、等級評価にはそこを加味していません。 ココをきちんと切り分けないと本質的な価値を見失うので、バサッと切り分けました。 また、「業務内容の変化」で人の価値は変わらないという部分も全く同じです。
武井
そうですよね。 そうした方が色んな仕事にチャレンジしやすくなりますもんね。
中村
やはり考え方は似ていますね。 「自己評価」の部分は、ISAOでは「主張はしてもいいよ」くらいですかね。 その方がフィードバックしやすくなるので。 今後仮にマーケットバリューが極めて高い人が入社してきた場合、例えば年収2,000万が妥当な人が現れた場合にはどうするんですか。
武井
ダイヤモンドメディアとしては、その給料をそのままお支払するか、週2で働いてもらうというような形をとると思います。(笑) もしくは、うちの役員は選挙制なので、選挙で選ばれれば役員になってもらい役員報酬として払うかですかね。 マーケットバリューも大事なのですが、社内の納得感も重視して決めます。
え?辞めやすい制度?!
中村
逆に、「こういう人はダイヤモンドメディアには居てはいけない」みたいな基準はありますか。
武井
うちがやっていくビジネスに合ってない人ですかね。
中村
それはスキル的にと言う意味ですか。
武井
そうですね。 人格とかはそんなに見ていません。 というのも、合わない人は自然とやめていく仕組みになっているので。
中村
と、言いますと。
武井
給料をオープンにしながらみんなで話し合うと、(ダイヤモンドメディアに)合わない人は居心地が悪すぎてすぐに辞めていきますね。(笑) 3ヶ月以内にやめた人には「ミスマッチ制度」と言って退職金を1ヶ月分多く支払う仕組みがあります。
中村
こっちも悪かったよという意味合いも込めてですかね。
武井
はい。 会社を辞めやすい仕組みは結構作っています。 知り合いの会社と提携して退職者を受け入れてもらう制度や、お試し移籍制度などです。 そもそも僕達のビジネスモデルに合う人、合わない人もいると思うので。
中村
辞めやすい制度というのは、まだISAOは作っていません。 でも、すごくいいですね。
だらしないヤツ、許せる?許せない?
中村
話は変わりますが、全体的にはどんな雰囲気の会社なんですか。 体育会系なのか、研究寄りなのか。
武井
基本ほったらかしなんですが……、よく大学生のサークルとか部室みたいだと言われます。
中村
全然朝起きられない社員とかいないんですか。
武井
いますいます。(笑)
中村
それはいいんですか?(笑)
武井
いや、よくないんですけどね。
中村
みんなで給料を決めているということは、みんながその人は「遅刻しても価値がある」と認めているんですね。 では、その人が仮に遅刻しなかったらもっと給料もらえるんですか。
武井
もらえるかもしれませんね。 でも、そういうメンバーに限って天才肌だったりするんで、普通の人が2ヶ月掛かる仕事を3日で終わらせたりしちゃうんです。
中村
ここの部分はISAOとちょっと違いますね。 これは僕の趣味かもしれませんが、「大人に育てたい」という気持ちが凄く強いです。 ISAOだけで通用する人材ではダメで、世の中できちんと認められる人になってもらいたいですね。
武井
もちろんそういった思いもありますが、その人が生み出しているバリューをきちんと見ていきたいと思っています。
中村
ISAOも古き良き「しつけ」をしっかりする会社での経験がない社員が多いですし、基本恰好もコミュニケーションも緩いので、ベースの教育だけはきちんとしておきたいと考えています。 老婆心的な考え方ですね。
生産性の管理とスケーラビリティについて
中村
ところで、生産性の管理ってどうされていますか。 ISAOでは部署もなく上司という考え方もないので、各個人のリソースの管理を特に行っていません。 多くの社員が複数プロジェクトにまたがり、自分で自分のリソースを管理しているのですが、ダイヤモンドメディアさんの場合はどのように運営、最適化されていますか。
武井
ダイヤモンドメディアはまだまだ規模も大きくないので、その辺りは結構ざっくりしていますね。
中村
ISAOもざっくりしているのですが、ここも働き方をオープンにすることによって最適化されるかなと考えています。 どんな仕事に誰がどれだけ工数をかけたのかをtadashiという自社の工数集計システムでオープンにすることによって、誰もが他人の工数割り振りを把握できるので、工数とアウトプットがあまりにおかしければいつでもツッコめる状態になっています。
武井
うちもレイバーという仕組みで、どの業務に誰が何時間割いたのかという管理をしています。 基本的には毎月の納会で課題解決や新規プロジェクトについて話し合い、誰が何をするのか決めています。
中村
組織が大きくなっていくことをどのくらい意識して制度設計をされていますか。
武井
スケーラビリティはかなり意識して設計しているので、100人くらいなら耐えられると考えています。
中村
給料の話も100人でできますかね。
武井
現状すでに10人弱くらいのグループに分けてやっています。 「一緒に働いている人同士」で1回、「ランダムな組み合わせ」で1回、計2回やっています。
中村
色んな意見が出つつ、人数が増えてもアレンジできるところがポイントですね。 結果はオープンにするのですか。
武井
1回目の結果をまずはオープンにし、管理部門と僕を含む役員で給与額に調整を入れ、それをベースに再度話してもらう感じですね。 調整は下げる方向よりも、上げる方向に調整することが多いです。 過去は過大な「自己評価」が原因で下げる調整をしたこともありましたが、この仕組みにしてそういうことは自然と減っていきました。
中村
ISAOもやっていることはほぼ同じですね。 Goalous上で同じプロジェクトのメンバーやコーチが評価し、その結果を人事委員会で見て調整をいれるという感じです。 その人事委員会も誰が参加してもかまわないという事で透明性を保っています。
続きは次回。 **第三回は「互いが目指す未来の姿」**です。 お楽しみに!